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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)3418号 判決 2000年1月21日

原告

柴田重一

原告

佐藤新一郎

右両名訴訟代理人弁護士

井上二郎

中島光孝

被告

株式会社峰運輸

右代表者代表取締役

応地峰義雄

右訴訟代理人弁護士

得津正

主文

一  原告柴田重一の本件訴えのうち、本判決確定日以降に支払期が到来する将来の賃金の支払を請求する部分を却下する。

二  被告は、原告柴田重一に対し、七八万円並びに内一三万一〇〇〇円に対する平成一一年三月一六日から、内五二万円に対する同年七月一六日から、うち一二万九〇〇〇円に対する同年八月一六日から各支払済みまで年六分の割合による金員の各支払をせよ。

三  原告柴田重一が被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。

四  被告は、原告柴田重一に対し、平成一一年九月以降本判決確定まで、毎月一五日限り、三四万七五〇〇円の支払をせよ。

五  原告柴田重一のその余の請求を棄却する。

六  被告は原告佐藤新一郎に対し、六万〇五〇〇円及びこれに対する平成一一年一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の各支払をせよ。

七  訴訟費用は全部被告の負担とする。

八  この判決は、第二項、第四項、第六項にかぎり、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告柴田重一に対し、一六〇万三〇〇〇円並びに内二五万四〇〇〇円に対する平成一一年三月一六日から、内五二万円に対する同年七月一六日から、うち一二万九〇〇〇円に対する同年八月一六日から各支払済みまで年六分の割合による金員を、内七〇万円に対する平成一一年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の各支払をせよ。

2  原告柴田重一が被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。

3  被告は、原告柴田重一に対し、平成一一年九月以降毎月一五日限り、三四万七五〇〇円の支払をせよ。

4  被告は原告佐藤新一郎に対し、六万〇五〇〇円及びこれに対する平成一一年一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員の各支払をせよ。

第二事案の概要

(原告柴田の請求)

被告の同原告に対する配転命令が無効であり、これが不法行為を構成するとして、配転命令によって減少した賃金の減額分と慰藉料を請求し、かつ、その後された解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利の確認と解雇以後の賃金の支払を請求するもの

(原告佐藤の請求)

原告佐藤は、被告からその運転車両に損傷を生じさせたとして無事故手当及び賞与を減額されたが、右損傷は原告佐藤が生じさせたものではないとして、債務不履行を理由に右減額手当及び賃金の支払を請求するもの

一  争いのない事実等

1 当事者

(一) 被告は運送業を目的とする株式会社である。

(二) 原告柴田は平成元年四月、原告佐藤は平成六年六月一〇日、いずれも被告が運送業に用いるトラックの運転手として雇用された者で、大阪市南港所在のスーパーマーケットの商品配送センターから各スーパーマーケット店舗への配送業務に従事してきた。具体的には梅田運輸倉庫株式会社(以下「梅田運輸倉庫」という。)の南港センターにおいて同社の配送担当者から配送指示を受けて各スーパーマーケット店舗への配送業務を行っていた者である。

(三) 原告らは、平成九年二月、被告の従業員で組織する峰運輸労働組合を結成し、原告柴田は執行委員長、原告佐藤は副委員長に就任し、かつ同組合は結成と同時に泉州地方労働組合連合会(以下「泉州労連」という。)に加盟し現在に至っている。なお、原告らは峰運輸労働組合の組合員であると同時にその上部団体泉州労連の組合員でもある。

2 原告柴田の労働条件変更

(一) 被告は、平成一一年一月七日付けで、原告柴田に対し、同年一月八日以降本社に勤務し、被告の指示する業務に就くよう命じた。原告柴田は一応これに従っている。

そして、原告柴田の賃金は、右配転に伴って、同年一月分以降、大幅に減少したが、その支払額は、次のとおりである。減額となったのは、運転業務に伴う手当がなくなったことによる。以下、右配転命令を「本件配転命令」といい、また、これと賃金減額を併せて「本件労働条件変更」ともいう。

同年一月分

金二二万四五〇〇円(<証拠略>)

同年二月分

金二一万六五〇〇円(<証拠略>)

同年三月分

金二一万六五〇〇円(<証拠略>)

同年四月分

金二一万六五〇〇円(<証拠略>)

同年五月分

金二一万八五〇〇円(<証拠略>)

同年六月分

金二一万八五〇〇円(<証拠略>)

同年七月分

金二一万八五〇〇円(<証拠略>)

(二) 賃金は毎月末締め切り翌月一五日払いである。原告柴田が右賃金カット直近三か月間に受けていた賃金の平均賃金月額は三四万七五〇〇円であるから、右平均賃金額と原告柴田が現実に受けた賃金との差額は同年一月と二月の二か月の合計は二五万四〇〇〇円となり、同年三月から同年六月の四か月の合計は五二万円となる。また、同年七月分の差額は一二万九〇〇〇円である。

(三) 原告らが加盟する前記峰運輸労働組合及び泉州労連(以下、両労働組合を併せ、単に「組合」という。)と被告との間には平成九年六月二三日付けで労働協約が締結され、同協約には「基本的な労働条件の変更については、会社と組合が事前に協議し、組合の同意を得て、円満に行う」との事前協議・同意約款がある(<証拠略>)。

(四) 本件労働条件変更は組合との事前協議を得ていない。

3 原告柴田の解雇

(一) 被告は、原告に対し、平成一一年七月三〇日付け書面をもって原告を同月三一日付けで解雇する旨の意思表示をした(<証拠略>)。

(二) 解雇事由は、被告の就業規則五三条三号、八号、九号に該当する事由があるというものである。

就業規則五三条の当該規定は次のとおりである。

三号 勤務成績が・・(中略)・・著しく不良であるとき

八号 事業の縮小や閉鎖、不況などによって、人員過剰になったとき

九号 その他、やむをえない業務上の都合があるとき

4 原告佐藤の賃金減額

(一) 原告佐藤は、平成一〇年八月二日午前三時四〇分ころ、泉大津市の被告本社車庫を出発して、南港の商品配送センターに赴き、荷物積み込み後、河内方面へ配送し、商品配送センターに戻って、再度荷物積み込み後、ジャスコ高見店へ赴いた。

その間、原告佐藤の運転車両のフロントガラス枠の右上角付近に損傷が生じた。

(二) 被告は、右損傷は原告佐藤が起こした事故であるとし、事故があつ(ママ)た場合無事故手当を差し引くとの就業規則三三条三号、三六条に基づき、その平成一〇年八月分の賃金から無事故手当二万円を減額し(<証拠略>)、さらに、右「事故」を理由に同年末の賞与一三万五〇〇〇円から四万〇五〇〇円を減額した(<証拠略>)。

二  争点

1 原告柴田の請求関係

(一) 本件労働条件変更の効力

(二) 本件労働条件変更が不法行為となるか否か、また損害の有無

(三) 本件解雇の効力

2 原告佐藤の請求関係

(一) 原告佐藤運転車両の損傷が原告佐藤の事故によって生じたものか否か

(二) 賃金減額の根拠の有無

三  争点に関する当事者の主張

1 争点1(一)(本件労働条件変更の効力)について

(一) 被告

(1) 被告が原告柴田に対して本社勤務を命じたのは、被告の最重要な取引先である梅田運輸倉庫の南港センターにおける原告柴田の就労態度が悪く、そのため同社から、原告柴田の南港センターにおける就労を拒否されたからである。すなわち、被告は、同社から、

<1> 平成九年八月五日、原告柴田が、同社の南港センターにおいて、同社の配車担当者の配車指示を拒否し、かつ、他の担当者にも文句を言ったので、同社の配車担当者は他の運転手に配送を指示したとして、原告柴田を南港センターにおける就労から外すように要請され、

<2> また、平成一〇年九月一日、原告柴田が日頃から南港センターの同社の配車担当者に対し「同じ場所に何回も行かせる。」「遠方に行かせる。」等と文句を言い、また、言葉使いがきつく、返事をしないことがあるなど態度が悪いとして、協力会社としての立場をわきまえていないこと、このような状態が続けば南港センターへの出入りを差し控えてもらう事態になると申し入れられ、

<3> 平成一〇年一二月三〇日には、原告柴田が、同社の配車担当者に対し、遠方店への配車が多いと言って不満の意向を示したとして、原告柴田の再三にわたる就労態度の悪さを理由に、原告柴田の南港センターにおける業務を外すこと及び原告柴田に代わる他の運転手との交替を行うことを申し入れ、更に、早急に対策を検討して報告することを要求された。

(2) そこで、被告は、原告柴田を梅田運輸倉庫の担当から外さざるを得ず、また、原告柴田を他の配送センターに配転することはその従前からの担当運転者との関係もあって困難であったので、本件配転命令を決定したのである。運転業務以外の業務を命じたのは、原告柴田自身及びその労働組合執行委員長との立場を考慮し、本来なら解雇となるべきところ、これを避けるためにしたことによる。また、本件配転命令は、前記労働協約にいう「基本的な労働条件の変更」に該当しないから、組合との協議を要しない。右協約の「基本的な労働条件の変更」とは、賃金体系、賃率、労働時間等の変更をいうもので、解雇、職種変更、配置転換、懲戒処分等従業員の身分に関するものは除外されている。

そこで、被告は、原告柴田に対する本件配転命令に当って、同原告の所属労働組合とは、事前の協議等を行わなかったが、ただ、同原告が峰運輸労働組合執行委員長であったことから、その立場を考慮して、事後的な協議等を行った。

(3) 仮に、右協約の適用があるとしても、前記<1>ないし<3>の原告柴田の就労態度は、被告の従業員としての態度に相応しくないもので、業務上の重大な帰責事由に該当するものであり、最も重要な取引先から強硬に要請され、その対応が遅れた場合には取引関係に重大な影響が生じることが予想され、その措置に急を要したもので、本件配転命令に当たって労働組合と事前に協議をしなかったとしても、これを適法なものとすべき特段の事情がある。

(4) 賃金の引き下げは、本件配転命令に伴い、その職務に伴う手当が減少したものであるから、原告柴田の同意を得る必要もなく、また、前記労働協約の事前協議・同意約款にも抵触しない。

(二) 原告柴田

(1) 原告柴田が配車拒否をした事実はない。配車の指示に従って勤務していた。<1>については、配送二便目の往復が道路事情によって時間がかかることが予想されたので、三便目の配送先に迷惑をかけてはいけないので、三便目に変(ママ)わりの運転手が確保できるならそうして欲しいと伝えただけで、梅田運輸倉庫の了解も得た。また、<2>については、同年九月の原告柴田に対する配車の配送先が連日遠方ばかりで、疲労もきついから遠方への配送がいくらかでも減るように配慮を求めた。同年一二月にも、和歌山などの遠方への配送が五日間続き、同月六日にも遠方を指示されたが、組合員以外にはこのように遠方ばかり指示されることはなかったので、労働組合の執行委員長として配車は遠方が特定の者にだけ偏ることなく公平にされたいと申し入れたものであり、この要請により、何ら配送業務に支障を生じさせたものではない。

原告柴田が南港センターの就労業務を外されなければならないような言動をした事実はない。それに、仮に梅田運輸倉庫の配送業務から外すとしても当時披(ママ)告会社の運行車両の内一四台は南港センター以外に配車されていたし、他の運送会社から請けていた運送業務もあり、原告柴田をその運転業務に就かせることは、充分できたはずである。したがって、原告柴田を運転業務から外す必要性はない。

(2) 原告柴田は、トラック運転手としての職種を限定して雇用されたものであるから、原告柴田の同意なく他の職種に配転することはできない。被告の就業規則九条の「業務の都合によって、従業員の所属の変更などを会社が命じることがあります」と規定されているが、労働の種類、内容が雇用契約の内容となっており、予め予定される範囲を超える雇用契約の変更は労働者の個別の同意を要するものであり、労働の種類及び態様は労働者にとって極めて重要なものであることからすると、この規定は、雇用契約当初に約定された職種と全く異なる職種への配転を命じる場合には適用されないというべきである。原告柴田が本件配転命令に同意したことはないから、本件配転命令は無効である。

(3) これに加え、本件配転命令は、前記労働協約にいう「基本的な労働条件の変更」に該当するものであるからその事前協議・同意約款に違反するものであり、無効である。労使関係において、事前協議等が実際に機能を果たしているのは、配転、職種変更、解雇等の身分関係であるから、その対象からこの身分関係を外すということは考えられないことであり、また、そのような限定が加えられているならその重要性からいって書面が作成されているはずであるのに、そのようなものはない。従って、右の「基本的な労働条件」に限定を加えられたことはないというべきである。

(4) 本件配転命令が無効である以上、これに伴う賃金カットも違法であり、本件労働条件変更は無効である。

(5) また、賃金は、雇用契約における最も重要な契約内容であるから、これを労働者の同意なく一方的に不利益に変更することはできないものであり、まして、被告との間では、前記労働協約第五項に「基本的な労働条件の変更」については事前協議・同意を要するとされているのであるから、原告柴田の同意なくされた賃金の引き下げは無効であり、本件労働条件変更はすべて無効である。

2 争点1(二)(不法行為の成否及び損害)について

(一) 原告柴田

被告は、違法に本件労働条件変更をしたものであるところ、これは不法行為に当たり、原告柴田は、これにより著しい苦痛を受けたので、慰藉料として七〇万円が相当である。

(二) 被告

本件労働条件変更は適法なもので、不法行為を構成しないし、原告柴田に損害はない。

3 争点1(三)(解雇の効力)について

(一) 被告

(1) <1>原告柴田が、平成九年二月一日その配送業務について梅田運輸倉庫の配送担当者に直接コース表を請求したこと、<2>同年八月五日の同社の配車担当者の配車指示に対する拒否及び他の担当者に文句を言ったこと、<3>平成一〇年九月一日及び同年一二月三〇日申入れにかかる配車担当者に対し文句を言うなどの態度があり、梅田運輸倉庫から南港センターでの業務差止めを求められたこと、<4>平成一一年一月六日にも原告柴田の就業差止と代替運転手の派遣を求められたことは、就業規則一〇条三号所定の得意先を大切に扱う旨の規定に抵触することとあいまって、同五三条三号の勤務成績が著しく不良であるときに該当する。

(2) 補充的に、就業規則五三条八号または九号該当事由もある。運送事業は長期の不況のもとで業績悪化の状況にあり、被告においても、平成九年度(年度は当年四月一日から翌年三月三一日まで)の当期利益は四四万七一八二円、平成一〇年度の当期利益はマイナス五三六万三〇三九円という悪化した財政状況のもとで、本件配転命令後の原告柴田の業務が一日一時間程度の業務量でしかなく、運転業に従事させることは前述の梅田運輸倉庫及び他の運転担当者との関係でできず、他に就労させるべき部所(ママ)がないことからすると、就業規則五三条八号または九号に該当する。

(3) 本件解雇は、単純な整理解雇ではないので、いわゆる整理解雇の四要件を充足する必要はないが、人員削減の必要性は、被告の財政状況及び原告柴田がしていた業務内容からして、客観的かつ合理的な必要性があるといえる。解雇を選択する必要性は、被告の悪化した財政状態改善のため現実的かつ効果的であり、至当な手段である。被解雇者選定の妥当性は、原告柴田に、かつてその運転車両のタコメーターを不正に改造したこともあり、前記梅田運輸倉庫において就労態度が悪かったことから、その選定には客観的な妥当性がある。手続的には、事前協議の対象ではないから、これをしなかったからといって、問題になるものではない。

(二) 原告柴田

(1) 原告には、解雇事由が存在しない。

被告は、解雇事由として、原告柴田がコース表を請求したことを挙げるが、コース表は毎日センター内に掲示されているものであるから、そのコピーを求めたとしても、勤務成績が著しく不良に当たるとはいえない。被告主張の解雇事由<2>及び<3>については、原告柴田が配車拒否をしたことはなく、争点1における原告柴田の主張<1>及び<2>に主張のとおりである。<4>についても、前述のとおり、他の運転業務に配転できる以上、解雇事由にはならない。

また、被告が解雇事由として主張する就業規則五三条八号または九号は、整理解雇を主張するものであるが、いずれも理由はない。

(2) そして、本件解雇は前述の労働協約の事前協議・同意約款に違反している。本件解雇が、右協約の「基本的な労働条件の変更」に当たることは明白であるところ、被告は本件解雇について組合との協議を全く経ていない。右約款は規範的効力を有するものであるから、右約款に反してなされた本件解雇は無効である。

(3) そうでないとしても、解雇権の濫用である。

4 争点2(一)(損傷の原因)について

(一) 原告佐藤

本件損傷がどのような原因で生じたかは不明である。これが走行中に生じた根拠はない。

(二) 被告

原告佐藤運転車両の損傷は走行中の接触事故によるものであるから、原告佐藤が走行中に生じさせたことは明らかである。

5 争点2(二)(賃金減額の根拠の有無)

(一) 被告

無事故手当の不支給は、就業規則三三条三号、三六条に基づくものであり、事故を発生させた以上支給されるものではない。

また、本件事故は、原告佐藤が走行中に前方不注視によって発生させたことは明らかである。原告佐藤はその発生及び原因を知らないわけがないのに、これを秘して虚偽の報告をしているものである。したがって、原告佐藤には、重大な過失があるとともに、虚偽報告についても問責される立場にある。また、仮に、原告佐藤が事故の発生事態に気がつかなかったとすれば、前方不注視の程度はより著しいものであり、重大な過失があることは明らかである。

(二) 原告佐藤

事故があつ(ママ)た場合に無事故手当を差し引くとの約定(就業規則)は、無事故手当が賃金であることからすると、労働者が交通事故を起こした場合に使用者に生じるであろう損害の賠償額を予定する約定にほかならず、労働基準法一六条の賠償額予定の禁止に反するものであり、無効である。

就業規則の無事故手当のカットは、運転者に責のある場合にされるものであり、原因不明の場合にはカットすることはできない。

また、賞与からのカットは、就業規則三六条の規定により、故意又は重大な過失によって事故を起こした場合に限られるところ、原告佐藤には故意又は重大な過失はない。

第三判断

一  争点1(一)原告柴田に対する本件労働条件変更の効力について

1  (証拠・人証略)によれば、被告は、平成九年八月五日、梅田運輸倉庫から、原告柴田が、同社の南港センターにおいて、同社の配車担当者の配車指示を拒否し、かつ、他の担当者にも文句を言ったので、同社の配車担当者は他の運転手に配送を指示したとして、原告柴田を南港センターにおける就労から外すように要請され、原告柴田に謝罪させて、その後の南港センターへの就労について、同社の了解を得たが、その後、平成一〇年九月一日、同社から、原告柴田が南港センターの同社の配車担当者に対するクレームが多いので、指導、教育を徹底するようにとの警告を受け、平成一一年一月六日には、平成一〇年一二月三〇日に、原告柴田が、同社の配車担当者に対し直接クレームを付けたとして、原告柴田の南港センターにおける業務を外すこと要(ママ)求され、被告は、そのため原告柴田を従前のまま南港センターにおける配送に従事させることができず、原告柴田に対して本社勤務を命じるに至ったことを認めることができる。

原告柴田は、配車拒否までしたことはないといい、梅田運輸倉庫の配車担当者に配車について、要望したり、労働組合の委員長として公平な配車を求めただけであるというが、被告の得意先という他社との業務上の関係であるから、直接に苦情や要望を求めるのは相当でなく、それなりの手続を踏むべきであり、原告柴田の所為に問題があったことは否めない。そして、被告としては、梅田運輸倉庫から三回にも及ぶ申入れを受け、平成一一年一月六日には、原告柴田の南港センターにおける就労を拒否されたのであるから、原告柴田を南港センターで就労させることはできなくなったというべきであり、原告柴田の配置転換は致し方のないことというべきである。

2  なお、前述のように、原告らが加盟する峰運輸労働組合及び泉州労連と被告との間には平成九年六月二三日付けで労働協約が締結され、同協約には「基本的な労働条件の変更については、会社と組合が事前に協議し、組合の同意を得て、円満に行う」との事前協議・同意約款があるところ、原告柴田は、本件配転命令は、右労働協約にいう「基本的な労働条件の変更」に該当し、事前協議、同意がされていないから無効であると主張し、被告は、「基本的な労働条件の変更」には、解雇や配転は除外されていると主張する。

そこで、右協定の成立過程を検討するに、(証拠・人証略)によれば、次のとおり認めることができる。すなわち、組合は平成九年一月二九日付けで被告に団体交渉を申し入れ、要求内容の(6)項に「労働条件の変更については、会社と組合が事前に協議し、組合の同意を得て行うこと」を掲げた。被告はこれに対し、同年二月三日、組合に対し、「要求事項の(6)にある『労働条件の変更』の中身を特定して下さい。」と記載した通知を送った。そこで、組合は、同月一〇日「『労働条件の変更』とは、賃金、労働時間その他のすべての労働条件を意味する。」と回答した。そして、同月一五日、団体交渉が開催され、その際、被告は、要求事項(6)について「会社が賃金体系と賃率および所定労働時間等基本的な労働条件を不利益変更する場合は事前に組合と協議し、労使合意のうえ円満に行う。但し、組合は、この協定を濫用しない。」との同日付け回答メモを組合に交付して、事前協議、同意約定には、配転や解雇等の身分に関する事項は含まれないものとすることを提案した。これに対し、組合は、右約定の「賃金、労働時間」に、「配転、解雇」を加えることを要求したが、被告はこれを拒否した。その後の団体交渉において、事前協議、同意約定以外の事柄について概ね合意に達し、組合において、協定案を作成し、「労働条件の不利益変更に関する事前協議協定について」と題する項目のもとに、前述のとおりの協定が締結された。事前協議及び同意の対象とする事項については、平成九年二月一五日の段階では、配転や解雇を含ませるかどうかについて、組合と被告とで対立していたことが明らかであり、その後、この点について合意に至ったと認めるに足りる証拠はない。(人証略)はそれぞれが、組合又は被告の提案に相手が同意したというが、いずれも自己に都合良く解釈したものでこれらを採用できない。特に、被告に取ってみれば、配転等従来経営者の裁量で行ってきたものに制約を受けるわけであるから、その点を容易く(ママ)譲歩するとは思えないのに、さしたる議論もなく協定に至っている点からすると、配転や解雇を含ませるかどうかについては明らかにすることなく、協定に至ったというべきである。そして、協定書の文言をみると、被告が提案した回答メモにおける「基本的な労働条件の変更」「不利益変更」という語を使い、例示として挙げられていた「賃金体系と賃率および所定労働時間等」を削除し、組合の要求であった「配転、解雇」という語は加えていない。以上を総合すると、右協定は、事前協議及び同意の対象に配転や解雇を含ませるかどうかについては、組合と被告とで対立したまま玉虫色の解決をはかったものと認めるのが相当である。右協定後、被告が解雇等の際に、必ずしも組合と協議せず、組合は形ばかりの抗議にとどめているのは、右協定のそのような成立過程を反映しているものといえる。

してみれば、本件配転命令について、被告が、組合との事前協議を経なかったことによって本件配転命令が無効になるものではない。

3  ところで、原告柴田と被告の雇用契約は、原告柴田の業務をトラック運転手として限定してされたものである。そこで、その配置転換先は、他の運転業務がまず検討されなければならない。ただ、本件配転命令が、梅田運輸倉庫による平成一一年一月六日の原告柴田の就労拒否を受けて、翌日されたことからすると、配転先検討のため、当面、運転業務以外の勤務を命じたとしても、そのこと自体はやむをえないものであり、これによって、運転業務に伴う手当の支給がされなくなったとしても、これを違法ということはできない。しかしながら、雇用契約に業務の限定があることからすると、右業務外への配転が合理的として許されるのは、配転先を検討し次の異動が可能となるまでの期間というべきである。

被告は、原告柴田を配転する運転業務がないと主張し、(人証略)は、被告が所有するトラックのうち、梅田運輸倉庫以外に就労するものは五台しかなく、その五台のうち三台は得意先から拒否され、一台については、従前からの運転手との関係で原告柴田との交替が困難であり、他の一台は車両の大きさ、就業時間帯が異なるという。しかし、梅田運輸倉庫には原告柴田が行かなくなればその交替要員が必要であり、そうすれば他の運転手を異動させることが考慮されるはずであるところ、原告柴田本人尋問の結果によれば、原告柴田に対する地上勤務は、本社勤務というものの、駐車場にある小屋にただ一人だけ配置されて、草取りや掃除以外に殆ど仕事もなく、その扱いには原告柴田への嫌悪が見て取れるのであって、これらを併せ考慮すると、原告柴田の配転先を真剣に検討したかどうかは疑問が残るところである。

そうすると、原告柴田の配転先を検討する期間としては、二週間もあれば充分というべきであり、被告は、遅くとも平成一一年二月には、原告柴田を運転業務に復させるべきであり、被告柴田の同月からの地上勤務は違法というべきである。

二  争点1(二)原告柴田に対する不法行為の成否及び損害について

前述のとおり、本件配転命令は平成一一年二月以降は違法なものというべきであり、これが原告柴田に対する嫌悪からされていることを考慮すれば、原告柴田に対する不法行為となるといえるものの、原告柴田自身がその原因を作ったものであり、賃金を支給される地位は回復されるのであるから、その慰謝料請求は認められない。

三  争点1(三)原告柴田に対する本件解雇の効力について

1  本件解雇は、<1>原告柴田が、平成九年二月一日その配送業務について梅田運輸倉庫の配送担当者に直接コース表を請求したこと、<2>同年八月五日の同社の配車担当者の配車指示に対する拒否及び他の担当者に文句を言ったこと、<3>平成一〇年九月一日及び同年一二月三〇日申入れにかかる配車担当者に対し文句を言うなどの態度があり、梅田運輸倉庫から南港センターでの業務差止めを求められたこと、<4>平成一一年一月六日にも原告柴田の就業差止と代替運転手の派遣を求められたことを理由とする。確かに、<1>ないし<3>の原告柴田の行為は、被告の得意先に対する行為であって、その配車に不満があったとしても、直接抗議することは穏当でなく、手続上問題があったといわなければならないが、解雇事由に該当するほどのことではない。平成一一年一月六日の梅田運輸倉庫の申入れについても、配転をもって処理すべき事柄であって、そのことだけによって解雇を正当化するものではない。

2  被告は、補充的に、就業規則五三条八号または九号該当事由もあるとし、運送事業は長期の不況のもとで業績悪化の状況にあり、被告においても、平成九年度(年度は当年四月一日から翌年三月三一日まで)の当期利益は四四万七一八二円、平成一〇年度の当期利益はマイナス五三六万三〇三九円という悪化した財政状況のもとで、本件配転命令後の原告柴田の業務が一日一時間程度の業務量でしかなく、運転業に従事させることは前述の梅田運輸倉庫及び他の運転担当者との関係でできず、他に就労させるべき部所(ママ)がないことからすると、就業規則五三条八号または九号に該当するという。しかしながら、原告柴田について、他に就労させるべき部所(ママ)があるかどうかを真剣に検討したかどうか疑問があることは前述のとおりであり、人員整理が必要となったとしても、運転業務に従事していないとの一事だけで解雇対象とすることはできず、本件解雇に合理性があると認めることができない。

四  争点2(一)原告佐藤運転車両の損傷の原因について

(証拠略)、原告佐藤本人尋問の結果によれば、平成一〇年八月二日の午前中まで、原告佐藤運転車両の右前方上部に凹損を生じたこと、原告佐藤はこれを同日午前一〇時ころ、被告に連絡したが、その損傷が生じた時期や原因については不明であると申告したこと、右損傷により、右ルーフ引き出し板金、右フロントピラー引き出し板金修理、右サイドパネル板金修理など合計九万七〇〇〇円を超える修理がされたことを認めることができる。右損傷の程度からすれば、右損傷は、車両に相当の打撃が加わったものと推認できるものの、それ以上に原因を特定できるための資料はない。(証拠略)によれば、修理業者が右損傷は走行中に発生したものであると述べた旨の記述があるが、損傷状況の写真さえ提出されておらず、これが走行中に生じたとの証拠はない。損傷が生じた時期についても不明である。そうであれば、これが原告佐藤が生じさせたものであると認めることはできない。また、損傷が生じた時期が不明であるから、原告佐藤の前方不注視も認めることができない。

五  争点2(二)原告佐藤に対する賃金減額の根拠について

無事故手当の不支給については、本件損傷が原告佐藤の運転中に生じたことを前提にされたものであるが、前述のとおり、本件損傷が原告佐藤の運転中に生じたと認めるだけの証拠がないから、右不支給の根拠はないこととなる。そしてまた、右損傷を原告佐藤が生じさせたといえない以上、賞与からの減額も根拠がないといわなければならない。

六  結語

以上によれば、原告柴田の本訴請求は、平成一一年二月以降の請求について理由があるので、これを認容する。ただし、将来の賃金のうち、本判決確定以降に支払期日が到来するものについては、却下する。また、原告佐藤の請求はいずれも理由があるので、これを認容する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本哲泓)

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